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名古屋高等裁判所 昭和54年(行コ)2号 判決 1981年2月27日

控訴人 宮道寿

被控訴人 豊橋税務署長

代理人 横山静 大山守 ほか三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者双方の申立

一  控訴人

1  原判決を取消す。

2  被控訴人が控訴人に対し昭和四七年三月三日付でした昭和四三年分所得税の再更正並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決を求めた。

二  被控訴人

主文同旨の判決を求めた。

第二当事者双方の主張

次に訂正・付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決九枚目表五行目に「申請」とあるのを「申告」と、同九枚目裏八行目に「17」とあるのを「16」とそれぞれ訂正する。

二  控訴人の主張

1  別表番号1及び2(原判決添付別表三(一)の番号2、同(二)の番号1)の各土地はいずれも農地であるところ、別表記載のとおり昭和四三年後に農地法所定の知事の許可がなされているので、昭和四三年分の収入金額として所得を計算することは違法である。

2  別表番号2の土地の譲渡金額は三三〇万円である。即ち、控訴人は右土地を訴外及部賢一及び同丸山敬次郎に三三〇万円で売却したところ、同人らはこれを訴外津田好三に三七五万円で転売した。しかるに、同人らは転売利益四五万円が表面に出ないようにするため控訴人と津田との間に直接売買がなされた旨の契約書(<証拠略>)を作成した。その結果、被控訴人は及部らの津田への転売金額三七五万円をもつて控訴人の譲渡金額であると主張しているのであるが、これは誤りである。

また、別表番号3(原判決添付別表三(二)の番号3)の土地の譲渡金額は四九八万円(一坪当り一万円)である。即ち、控訴人は右土地を訴外白井理一に四九八万円で売却したところ、同人はこれを訴外小林重子らに転売した。しかるに、白井は自己の転売利益が表面に出ないようにするため控訴人と小林らとの間に直接売買がなされた旨の契約書(<証拠略>)を作成したものにすぎず、実際は、控訴人は四九八万円を超える代金を受取つていない。

3  別表番号2及び3の各土地は農地(同3の土地は公簿上の地目は山林であるが、譲渡当時の現況は畑であつた。)であるから、控訴人のなした右土地の譲渡については事業用資産の買換え特例の適用がある。

4  控訴人は、別表番号2の土地について四五万円、同番号3の土地について一九九万円の各収入金額を仮装、隠ぺいしたことはなく、仮に確定申告が過少記載と認められるとしても、控訴人としては、右各土地についても当然に事業用資産の買換え特例の適用が受けられると考えて申告手続をしたもので、本件のように課税の対象にされるとは全く予期していなかつたから、不正行為にあたるとの認識はなく、ましてや所得税を免れる意思も有していなかつた。

三  被控訴人の主張

控訴人の主張は争う。

第三証拠関係 <略>

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は原判決認容の限度で正当として認容し、その余は失当として棄却すべきものと判断する。その理由は、以下各争点につきそれぞれ訂正・付加するほか、原判決理由記載のとおりであるから、これを引用する。

(一)  別表番号2及び3の土地の譲渡収入金額について

(1)  同番号2の土地について

原判決一三枚目裏七行目から八行目にかけて「証人津田好三の証言」とあるのを「原審及び当審証人津田好三、当審証人及部賢一の各証言」と、同一四枚目表二行目に「及び原告本人」とあるのを「並びに原審及び当審における控訴本人」とそれぞれ改める。

控訴人が右土地譲渡の相手方及び代金につき当審において追加した主張に副う原審及び当審における控訴本人の供述は、<証拠略>に照らして措信できないから、右主張は理由がない。

(2)  同番号3の土地について

原判決一四枚目表九行目から一〇行目にかけてと同一四枚目裏末行にそれぞれ「及び証人白井理一の証言」とあるのを「並びに原審証人白井理一及び当審証人丸山登三雄の各証言」と、同一四枚目裏四行目に「証人白井理一及び原告本人の各供述」とあるのを「原審証人白井理一、当審証人丸山登三雄並びに原審及び当審における控訴本人の各供述」と、同一四枚目裏五行目及び六行目にそれぞれ「白井理一」とあるのを「白井理一ら」と、同一四枚目裏一〇行目に「原告本人の供述」とあるのを「原審及び当審における控訴本人の各供述」とそれぞれ改める。

<証拠略>によれば右土地の売買契約書には、右土地が控訴人から訴外小林らに直接売却された旨記載されていることが認められるが、右は控訴人と訴外白井らとの通謀による実際の譲渡価額を隠ぺいするための便法であること原審認定のとおり(原判決一四枚目一行目から九行目まで)である。よつて、控訴人が右土地譲渡につき当審において追加した主張も理由がない。

(二)  原判決一五枚目表五行目から六行目の「七一八万四、五七五円」から同八行目までを「七一八万四、五七五円で日車不動産株式会社に、右2の土地を同年一一月五日に二九八万二、六〇〇円で戸狩木子松に譲渡している。」と改める。

(三)  別表番号1及び2の各土地の譲渡所得の帰属年度について

旧所得税法がいわゆる権利確定主義を採用したのは、課税に当つて常に現実収入のときまで課税することができないとしたのでは、納税者の恣意を許し、課税の公平を期しがたいので、徴税政策上の技術的見地から、収入の原因となる権利の確定した時期をとらえて課税することにしたものであることにかんがみれば、農地の売買について農地法所定の知事の許可のある前であつても、すでに契約に基づき代金を収受し、所得の実現があつたとみることができる状態が生じたときには、その時期の属する年分の収入金額として所得を計算することは違法ではないというべきである。本件農地売買契約においても、控訴人は右売買契約に基づき本件係争年中に代金を取得しているのであるから、未確定とはいえこれを自己の所得として自由に処分することができるのであつて、右金員の取得により、既に右契約が有効に存在する場合と同様の経済的効果をおさめているわけである。従つて税法上は右代金の取得により所得が実現されたものとしてこれに対し課税しても違法とはいえない。控訴人の主張は採用することができない。

(四)  事業用資産の買換え特例の適用の有無について

(1)  別表番号2の土地について

原判決二五枚目表一行目の「二五、二七号証によれば、」から同三行目の「認められ」までを、「二五、二七号証、原審及び当審証人津田好三の各証言(一部)並びに当審における控訴本人尋問の結果(一部)によれば、控訴人は右土地を昭和四一年一〇月頃に前主訴外牧野郁子から買い受け、同四三年四月二一日訴外津田好三に売却したものであるが、牧野及び控訴人は右土地を耕作せず、控訴人の手を離れてからも訴外野原義春が借地して二年位稲作をしたほかは荒地として放置され、その後昭和四八年頃訴外白井和吉が買い受け再び同人のもとにおいて田として耕作されるにいたつたことが認められ」と改め、同二五枚目七行目に「右認定に反する証人津田好三の証言は措信し難い。」とあるのを、「原審及び当審証人津田好三、当審証人及部賢一の各証言、原審及び当審における控訴本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信しがたい。」と改め、同二五枚目表八行目に「一年」とあるのを「一年半位」と訂正し、同二五枚目表末行に「原告」とあるのを「控訴人は原審及び当審において」と改める。

(2)  別表番号3の土地について

原判決二五枚目裏末行に「証人白井理一の証言」とあるのを「原審証人白井理一及び当審証人丸山登三雄の各証言」と改め、同二六枚目表六行目から一一行目までを「控訴人は、原審及び当審において、右土地が草生状態にあつたことは認めながらも、昭和四一年頃梅林にする積りで梅の木を全面にわたつて植栽した旨供述しているが、原審証人白井理一及び当審証人丸山登三雄、同瀬川誠の各証言に照らすと、右土地上における梅の木の植栽が控訴人の供述するほど大規模のものであつたとはにわかに認めがたい。また控訴人の供述によつてすら、右梅の木の苗は高さ五〇糎位のもので、その肥培管理も芽が出て色が悪いときに肥料をやつたことがあり、時には除草をしたこともあつたという程度にすぎず、本件譲渡当時には大人の背丈ほどにも雑草が生い茂つていたという管理状況であつたことなどからすると、控訴人が右土地をその事業の用に供していたものとは認めがたい。」と改める。

(五)  重加算税の課税処分について

控訴人は、事業用資産の買換え特例の適用が受けられるものと考えて本件申告をしたもので、不正行為の認識も所得税を免れる意思も有していなかつたから、重加算税の課税処分は違法であると主張する。

しかしながら、納税者は、右特例の適用の有無を問わず資産の譲渡による収入金額につき適正な申告をなすことを法律上要求されていることはいうまでもない。しかるに如上の説示(引用にかかる原判決理由を含む。)により明らかなように、控訴人は別表番号2の土地については津田好三に三七五万円で売渡しているにかかわらず、売買契約書には代金を三三〇万円と記載し、また同番号3の土地については白井理一らに五四七万八〇〇〇円で売渡しているにかかわらず、売買契約書には代金を三四八万六〇〇〇円、売渡先は小林重子らと記載し、取引金額を隠ぺいするとともに取引先も仮装し、右隠ぺい、仮装したところに基づき本件係争年分の確定申告をしているものである。右控訴人の所為が国税通則法六八条一項にいう隠ぺい、仮装に該当することは疑を容れないから、控訴人の右主張も理由がない。

二  よつて、控訴人の本件控訴は理由がないから棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 宮本聖司 浅野達男 寺本栄一)

別表

番号

契約年月日

許可年月日

1

豊川市三蔵子町中荒子32番

680m2

43.11.5

46.3.26

2

宝飯郡小坂井町大字小坂井字大島52番

495m2

43.4.21

45.11.5

同所53番

991m2

43.4.21

45.11.5

3

豊川市三蔵子町山塚1番の1

山林

1,642m2

同所1番の2

山林

661m2

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